初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 扉を叩かれ返事をすれば、ヘニーであった。
「オネルヴァ様。お着替えを」
 彼女は疲れているオネルヴァを心配しているのか、控えめにそう口にした。
「あ、はい」
 長椅子に座る前でよかった。座ったら立ち上がれなかったかもしれない。思っていたよりも、馬車の長旅で体力を消耗したようだ。
「顔色が優れないようですが。身体を絞めつけないドレスにいたしますね」
 これからイグナーツとエルシーとの食事の場だ。この簡素なドレス姿では、その場に相応しいとはいえない。
 ヘニーの手を借りて、オネルヴァは着替えた。
 今日も淡い色合いの勿忘草色のドレスである。キシュアス王国にいたときは、色の濃いドレスを着ていたオネルヴァにとっては、真新しい感じがした。
「オネルヴァ様は、優しい顔立ちをされておりますから、このような色合いがお似合いですね」
 後ろの鈎を留め終えたヘニーは、ほうれい線に深く皺を刻んで微笑んだ。
「あら。早速お迎えがきたようですね」
 そう言った彼女の顔は、より一層綻ぶ。
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