初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
秘密を知られた夫と秘密を知った妻
 イグナーツは寝苦しさを感じ、目を開けた。室内は明るい。これは魔石灯の豆明かりの明るさではなく、太陽が昇りカーテンの隙間から入り込んでいる明るさである。
 だが、いつもの部屋ではない。
 ここはどこだろうかとゆっくりと考え、エルシーの部屋であったことを思い出す。
 隣にいるはずの彼女に顔を向けた。
「……っ?!」
 イグナーツは思わず言葉を飲み込んだ。不覚にも、らしくもなく声をあげそうになったが、まだ眠っている二人を起こすのは悪いと思った結果である。
 まず、イグナーツが寝苦しかった理由であるが、エルシーの足が彼の腹部にのっていたからだ。
 そして思わず言葉を飲み込んだ理由であるが、彼女の手と頭はオネルヴァにぴったりと寄り添っていたからだ。ただ寄り添っているだけであれば、イグナーツだって朝からこんなに驚かない。
 オネルヴァのナイトドレスは襟ぐりの深いデザインになっていた。胸の下に前身頃を合わせているリボンがあり、それを調整して身体の締め付けをかえられるものだ。
 そのナイトドレスから、彼女の白い肌が覗いている。
 原因はエルシーにあった。エルシーの両手が、オネルヴァのドレスの中に、襟元から入っている。さらにその手は、がっしりとやわらかな双丘に触れており、彼女はそこに頬を寄せていた。
 まるで赤子のようである。母親を求める赤子のように、ひたっとくっついている。
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