結婚の条件
 キッチンに立つ明日香の薬指には、あの日貴也が贈ったリングが光っている。
 あの日、正直に打ち明けたことで、真実の愛と深い絆で結ばれた。望んでいた結婚の条件よりも大切なことに互いが気付けたのだ。
 それからすぐに同棲を始めた。勿論、結婚を前提とした同棲だ。

 魅せるインテリアのようにディスプレイされた数十本の包丁が、キッチンの壁で輝きを放っている。
 それらは、貴也が数年かけて集めてきた全てのもので、明日香にプレゼントしたものだ。

 集めた包丁をただ眺めているよりも、その包丁を使って必死に料理をする明日香を眺めているほうが、何倍も楽しめることに気付いてしまったのだ。

 貴也にとっては最幸(●●)の趣味といえる。

 眉を寄せ唇に力を入れる真剣な明日香の横顔を見つめている自分の表情は、きっと緩んでいるのだろう、と貴也は思う。

「やだっ、貴也君見ないで! 余計に手が震えちゃうじゃん」

 包丁使いはかなりぎこちないが、明日香が一生懸命ごぼうを刻んでいる。

 貴也がプレゼントした、とっておきの包丁を使って。

 貴也好みの、マッチ棒タイプのきんぴらごぼうを作る為に……





【完】
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