結婚の条件
 貴也は居住まいを正し、意を決して口を開いた。

「なぁ、明日香?」
「ん?」
「俺さぁ……今日、明日香が高そうな惣菜屋から出てきたところ見掛けたんだ」

 明日香は目を見開き固まっている。

「本当のこと話してくれる?」

 貴也がそう尋ねると、視線を落とした明日香の瞳から雫が零れ落ちた。

「ごめんなさい。こんなこと、いつかバレるのは分かってたし……話さなきゃいけない、のは、分かってたけど……なかなか、言い出せないまま、今日まできて……」

 途切れ途切れに話す明日香は、肩を震わせてしゃくり上げている。
 貴也は腰を上げ明日香の横に移動すると、明日香の頭を撫でながら優しく話しかけた。

「明日香、泣かなくていいから。……怒ってるんじゃないんだよ」

 明日香は小さく頷くと、呼吸を整えてから話し始めた。

「パーティーの時に、貴也君が別の人と話してるの、ちらっと聞こえたの。料理が出来る人が理想だって……」
「ああ……言った、かも」
「それで、料理が趣味なんて言ったけど、本当は全然出来なくて」
「そうだったのか」

 明日香が言い訳をせずに正直に話してくれたことに、貴也は安堵していた。
 そこで、もうひとつ尋ねた。

「俺たちは婚活パーティーで出会ったけど、明日香が結婚相手に望む条件って、何だったの?」
「それは勿論、人柄の良さが一番重要だけど……」

 明日香は少し言い淀んでから続けた。

「収入面……も大きかった」

 やはり明日香は正直(●●)な彼女だ。
 結婚相手の条件としてそれ(●●)はとても大事なことだ、と貴也は思った。

「それなら、俺も明日香を騙していたようなものだ。すまない」

 貴也は、高額をつぎ込んできた自分の趣味について、正直に明日香に打ち明けた。

 目を逸らさず真っ直ぐに自分を見つめる明日香の表情からは、『騙された』という怒りや悲しみの感情は見受けられなかった。

「……もしも、私のついた嘘を許してくれるなら、これからも貴也君のそばにいさせてほしい。料理はこれから頑張るから……」
「でも俺は、明日香が望んでいた結婚の条件を満たしていないと思う」
「それでも、私はあなたが好きです」

 ――許さない訳がない。

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