結婚の条件
「もしかしたら、マリネがちょっと酸っぱいかもしれないの……ごめんね」

 眉を曇らせる明日香を見た貴也は、フォークでパプリカを刺して口に運ぶ。

「いや、美味いよ。俺はちょうどいい感じ」
「なら良かった」

 貴也の言葉に明日香は表情を緩めた。

「テリーヌも初めて作ってみたんだけど……どうかなぁ」
「テリーヌ?」

 どれのことを言っているのか分からず、首を傾げながらテーブルの上の皿に視線を這わせる。

「あ、この四角いやつ?」
「そうそう」

 貴也はそれを見てあることに気付き、再び別の皿に視線を移す。
 サーモンのカルパッチョらしきものと、煮込み料理、その横の皿にのっているタルト生地の料理を見て、明日香に尋ねた。

「明日香、もしかしてこれ全部一人で作った?」
「うん、そうだよ」

「へえ、すげえな」と驚いてみせた貴也は、内心戸惑っていた。

 ――騙されていた。

 恐らく二年間ずっとだ。

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