攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!

第3話

 思いっきり指先に空気を引き付けて、弾く。

 もう1時間近く、ただそれだけを繰り返す。


 食卓にしている長いテーブル。
 グレンジャーが座っている上座から数えて10脚目。
 その前のテーブル中央に置かれた養父の銀製のシガレットケース。
 それを撃ち倒す。


 テーブルは結構な長さがある。
 片側に10脚の椅子が並んでいて。
 合計22名が食事可能な長さがある。


 たまに職場の部下を集めて、食事を振る舞うかららしいが、グレンジャーが来てから1ヶ月以上過ぎた今も、まだその食事会は行われていない。




 最初の日は3つ先の椅子の位置。
 その距離のテーブルの真ん中に置いたシガレットケースを狙え、と言われて。
 2発失敗して、3発目で撃ち倒すことに成功した。
 コツを掴めば簡単で、その日は10回倒しただけで解放して貰えた。


 側で見ていた養父は、グレンジャーが倒したケースを手を使わずに、元の位置に戻す。
 倒すよりも、もっと難しそうなその技術に。


『これはきっと、一番最後の正面の距離を撃ち倒せる様になれば、その次からは3脚目に戻って、撃つのと戻すのを、繰り返し練習させられるんだ』と。

 養父が自分に課す訓練の流れが読めた気がした。
 だが、まだ10脚目の撃ち倒しに思ったより手こずって成功していなかった。

< 7 / 97 >

この作品をシェア

pagetop