Far away ~いつまでも、君を・・・~
「教育係に任命されて、いろいろ教えてやってるうちに惚れられて、猛アタックされて、最初はもちろん相手にもしてなかったんだが、いつのまにか頑なだったはずの俺の心は溶かされてて、気がついたら、こっちがあいつに惚れちまってた。」


そう言って大地は照れ臭そうに笑う。


「俺は麻美に救われたんだ。あいつには感謝してもしきれない。だから、俺はあいつが望むことなら、出来る限り、何でもしたい。そう思ってる。」


ここで、大地は表情を改めた。


「彩、これが今の俺の素直な気持ちだ。だから、次は君の思いを聞かせて欲しい。」


その言葉を聞いた彩は


「是非やらせてください。」


はっきりと言った。


「本当にいいの?」


驚いたように尋ねてくる大地に


「大地さん、私はあなたの愛を最終的に受け入れることはできなかったけど、でもあなたが好きだったことは間違いありません。だから、その好きだった人とその人が愛する人の幸せで、大切なセレモニ-をお手伝いできるなら、こんなに嬉しいことはありません。だからよろしくお願いします。」


彩は深々と頭を下げる。


「かっこいいこと、言ってくれるなぁ。」


笑顔でそう言った大地は。いきなり彩を抱きしめる。


「ダ、ダメだよ!」


慌てて抵抗する彩を、一瞬スッポリと腕の中に納めた大地は、しかしすぐに彼女を解放する。戸惑いの視線を送る彩に


「うん、大丈夫。」


「えっ?」


「もう俺の心の中に彩はいない、それを確かめたかったんだ。今、ドキドキもしなかったし、麻美にすげぇ申し訳ないと思ったから。」


笑って大地は告げる。


「バ、バカ・・・。」


からかわれたような形になって、抗議の声を上げる彩に


「それにしても、彩は彼氏、未だにいないのか?」


大地は、痛いところを突いて来る。


「まだ、その心の中の奴を振り切れないのかよ。」


「・・・。」


「いい加減に決着付けて、先に進まねぇと、彩もおばさんになってく一方だぞ。」


「なっ・・・!」


いきなりの失礼な物言いに、思わず目をむく彩に


「おっと、これはセクハラ発言だったな、撤回、撤回。」


と大地は軽く頭を下げたが、尚も少しふくれっ面の彩。


「じゃ、そういうことで、今度の打ち合わせ、よろしくな。」


そう言うと、笑顔を残して、大地は歩き出して行った。


(そんな簡単な話なら、こんなに引き摺ってないし、苦労しないよ。)


後ろ姿を見送りながら、彩は1つため息をついた。
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