Far away ~いつまでも、君を・・・~

7月に入り、期末考査が終わると、もうあとは夏休みを待つばかり。受験生である3年生の表情はいよいよ引き締まり、1、2年生はなんとなく浮き足立っている。


「先生、夏合宿の練習スケジュールを作成して来ました。目を通していただけますか?」


この日の授業は、午前中で終わり、職員室で事務作業をしていた尚輝のもとにやって来たのは葉山千夏(はやまちなつ)。尚輝が担任を務める2年C組の生徒であり、3年生の引退に伴い、ひと月前に弓道部主将に就任していた。


「わかった、見ておくよ。そうだ葉山、まだ伝えてなかったが、今度の合宿では、地元の高校との練習試合を組んでいる。」


「本当ですか?」


「ああ。新チームになってから、初めての対外試合になる。そのつもりでいてくれ。」


「はい!」


千夏は、目を輝かせながら頷く。


「午後の練習は、やることがあって、少し遅れる。葉山、それまで頼むぞ。」


「わかりました、失礼します。」


礼儀正しく一礼して、千夏は職員室を出て行く。


(似てるな・・・。)


机の書類に目を戻しながら、尚輝はこれまで何度か抱いた感慨をまた覚えていた。


千夏は、かつて自分の憧れの存在だった廣瀬彩に似ていた。姿形というより、性格や纏っている雰囲気が、彩にそっくりだと思う。千夏はここ数年、低迷が続いていた颯天高弓道部に久しぶりに現れた期待の星だった。先のインハイ予選では、2年生ながら、個人戦で県のベスト10に入った。


これは彩以来の快挙だった。そんな彼女が、女子としては由理佳、彩と2代続いて以降、途絶えていた主将になったのは、当然の流れだった。


(弓道に対してひたむきで、何ごとにもまっすぐで。本当に、あの頃の彩先輩そっくりだ。)


尚輝はそう思っている。


(彩先輩は、2年のインハイ予選はボロボロだった。だけど、それから精進して、1年後に団体で4位、個人でも県ベスト5に入る成績を収めた。団体は正直、今のメンバーでは苦しいが、個人は葉山なら、彩先輩を超えられる可能性は十分ある。)


贔屓目なしに尚輝は、そう見ている。


(あと1年、なんとか葉山をそこまで導いてやりたい。)


尚輝は意気込んでいた。今回の夏合宿で、異例の練習試合を組んだのも、その為だった。


(とにかく、葉山には実戦をどんどん積ませたい。アイツを成長させるには、それが必要なんだ。)


そう判断していた。
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