Far away ~いつまでも、君を・・・~

新しい年がやって来た。しかし、今の尚輝には、華やいだ雰囲気など、全く別世界であった。


昨年は、新入部員も多く、葉山千夏の成長もあり、颯天高弓道部は活気に満ちていた。夏のOB・OG会では、出席者から「弓道部中興の祖」などとおだてられた。


だが、それからわずか半年足らずで、状況は一変してしまった。主将千夏は部を去り、副将佐伯美奈以下、2年生数名も部活に姿を見せなくなっていた。主将と副将をほぼ同時に失う形になった部内は動揺し、この事態に全く対応出来ないと見える顧問の尚輝に対する風当たりは、強まる一方であった。


尚輝にしてみれば、彼の職務は弓道部顧問だけではない。彼は社会科という教務の教師で、また2年C組という1つのクラスを受け持つ担任でもある。部活顧問の職務は、むしろサブ的なものに過ぎない。教師としてのパワ-もエネルギ-も部活にだけ、割けるわけではない。


だが、その言い訳も、千夏が他ならぬ尚輝のクラスの生徒であるという事実の前には、説得力はあまりなくなってしまう。


「考えてみればさ。」


年内の勤務も終わり、恋人と気分転換のドライブに出かけた車内で、尚輝はハンドルを握りながら、京香に話し掛けた。


「俺、別に葉山に告白されたわけじゃないんだよな。」


「えっ?」


何を言い出したのかと、訝し気な視線を送る京香。


「告白されてないんだから、俺は当然、彼女にイエスもノ-も言ってない。だから、葉山が俺に失恋したショックで、おかしくなったって言うのも本当なのかなぁと思わなくもないんだが。」


「じゃ、なんで彼女はあんなになってしまったの?」


「弓道に対する自信を失ったからとか。」


「それが理由だとしたら、葉山さんがあそこまで尚輝を拒むはずないでしょ。」


今更、何言ってんのと言わんばかりの口調で、京香は言う。


「だとしたら、アイツを傷つけた張本人である俺には、もう打つ手がないよ。」


そしてこれは今のところ、当の尚輝と千夏、それに京香以外は知らないことだが、この騒動の根本に、千夏の尚輝に対する恋愛感情があることが、尚輝をいよいよ手詰まりにさせていた。


「とにかくアイツは、俺に対して完全に心を閉ざしてしまって、話もさせてくれない。俺はどうしたらいいんだ?俺の方から、お前が好きだって言えばいいのか?それともアイツの前からいなくなればいいのか?なぁ京香、教えてくれよ。」


「何度拒まれても、諦めないことだよ。かつて、尚輝が何度振られても、何度でも彩さんにアタックしたように。」


「それとこれとは、話が違うだろ!」


京香の言葉に、尚輝がいらだちを隠せずに言い返す。車内の空気は、目に見えて重くなって行く。
< 160 / 353 >

この作品をシェア

pagetop