Far away ~いつまでも、君を・・・~
せっかくのデートも、気まずいままで終わってしまったが、正月ということもあり、尚輝は久しぶりに実家に帰った。


就職と同時に、実家を離れた尚輝。そんなに離れた距離に転居したわけではなかったが、確実に顔を出すのは年末年始の数日くらいで、滅多に実家に足を運ぶことはなくなっていた。


それでも、戻ってくれば、やはり安らぐものはある。


(とりあえず、何もかも一回忘れて、のんびりするか。)


思わぬゴタゴタに心労も多かった日々。尚輝は親に甘えて、寝正月を決め込むことにした。


元日を迎え、昼近くに起き出して来た尚輝。母親の手で用意された雑煮に舌鼓を打ち、配達された年賀状に目を通し


「お、こいつ結婚したのかよ。」


なんて感想を独り言ちていると


「そろそろ出かけるよ。」


と母親の声。元日の午後は、家族揃って近所の神社へ初詣。これは子供の頃から変わらない恒例行事。大きな神社ではないから、1時間もあれば行って、帰って来られる。


「寒かったなぁ。」


そんなことを言いながら、コタツに潜り込み、今日はこれでゴロゴロするだけと、目を閉じると、携帯が鳴り出した。


(京香か?)


恋人とは、明日デートを兼ねて、初詣に行く約束をしている。去年の最後のデートがやや気まずかったから、心機一転、明るい声で新年の挨拶をと思いながら、ディスプレイを見た瞬間、思わず起き上がった。


「はい、もしもし、ご無沙汰してます。」


背筋を伸ばして、携帯に出た尚輝の耳に


『明けましてあめでとう、尚輝。』


かつての憧れの人の声が響いた。


「はい、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。彩先輩。」


そう答えた尚輝の声は、よもやの彩からの電話に緊張していた。


『元日早々、悪いんだけど、ちょっと出て来られない。話があるんだけど。』


前置きは新年の挨拶だけ。すぐに本題に入る彩。先輩らしい単刀直入の物言いだと思いながら


「はい、もちろん大丈夫です。」


相変わらず彩に頭の上がらない尚輝は、二つ返事で立ち上がった。


そして、それから約1時間後、実家から車で30分程のファミレスに駆け込んだ尚輝に


「尚輝、こっち。」


かつて彼が憧れた笑顔で、彩は手を振っていた。
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