Far away ~いつまでも、君を・・・~
その日も定時に退勤し、ホテルを出た彩のスマホに1件の着信が入った。


「もしもし。」


『あ、先輩。お仕事終わりましたか?』


「うん、ちょうど今、仕事場出たところ。」


『ならよかった。先輩、この度は尚輝が、色々助けていただいて、本当にありがとうございました。』


そう言った電話の向こうの声の主は、木下倫生。尚輝の弓道部時代の同期生だった。


『今日から練習再開だったんで、気になって尚輝に電話してみたんですけど、練習ボイコットしてた部員も無事、ちゃんと出て来たそうで。安心しました。』


「そう、ならよかった。」


高校卒業後、都会に出たまま、里帰りも滅多にしないで来た彩だが、主将まで務めた母校弓道部のことはずっと気に掛けていた。特に尚輝が顧問に就任してからは、OB・OG会役員として、部に関わっている木下から、状況を随時聞いていた。


今回も、木下から連絡を受け、是非一肌脱いでもらえないかと言う彼の言葉に応じる形で、彩は動いたのだ。


『正直、今回のことは、尚輝の手には負えなかったと思います。やっぱりアイツはいつまで経っても、先輩に面倒みてもらわなきゃ、しょうがないんですね。』


「そんなことないよ。今回は本当にたまたま私が千夏ちゃんと面識があったから、お役に立てたかな。やっぱりOB・OG会は出ておかないとダメだね。」


『はい、是非今年もお待ちしてます。尚輝も俺も、なんだかんだ言って、先輩が来てくれるとテンション上がりますから。』


「キノもだいぶ口がうまくなったね。じゃ、また話聞かせてよ。」


『はい。それじゃ、失礼します。』


通話を終え、携帯をバックにしまった彩。


(これで、少しは尚輝に借りを返せたかな。)


そんな思いが一瞬、胸をよぎった後


(さぁ、今度は自分のことだ。)


心の中で呟いて、彩は歩き出す。担当する挙式が少ない今月だが、最後の日曜日に、元カレ瀬戸大地の挙式が控えている。


かつて彼と寄り添って見た、ベイサイドブリッジからの光が、駅へ急ぐ彩を照らしていた。
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