Far away ~いつまでも、君を・・・~
「彼がそんな自分に自信をもって、もっと大きな舞台で勝負したい、自分の力を試してみたいって野心を抱くのも当然かもしれない。でもね、なんか違うんだよ。」


「違う?」


「うん、はっきり言って斗真らしくないんだよ。」


「由理佳さん・・・。」


「出会ってから今年でもう12年、付き合ってからだって10年過ぎた。だから彼のことは、誰よりも、ひょっとしたら斗真本人よりわかってるつもり。彼、ああ見えて、本当は自分に自信を持てないタイプ。」


「そうでしょうか?」


「と言うか、自分を過信しないタイプなんだ。例えば、弓道だってそう。私は彼は大学に入ってからも弓道を続けると思ったし、続けるべきだと思った。児玉先生も言ってたけど、彼には高校卒業時点でまだ、選手としての伸びしろがあったと思うし、大学弓道界でも上位で活躍できる可能性はあったはず。でも、彼はあっさり弓道を辞めた。『大学でも活躍するには、廣瀬くらいの才能と向上心がなきゃ。俺にはとても無理だ。』って言って。」


(斗真先輩・・・。)


「昨日、斗真と一緒にいた女性見た?」


突然、話題を変える由理佳。


「チラッとですけど。」


「綺麗な人だったでしょ。」


「はい・・・大切なクライアントの娘さんだって、先輩はおっしゃってました。」


「ある企業の重役さんだそうなんだけど、斗真はかなり信頼されてるらしくて、ウチの娘はどうだって言われてるみたい。」


「由理佳さん・・・。」


「斗真はそんな気はないって、言ってたけど。私としたら、当然気分いい話じゃないよ。現に昨日も、ああやって会ってるんだから。」


「私も驚きましたけど、でも食事をしただけで、お相手の女性をタクシ-に乗せて、お見送りしてました。」


「斗真、その子の父親から、なんとか独立資金の一部を出させたいんだよ。」


「えっ?」


「その為に、私から彼女に乗り換えられたら、もちろん嫌だけど、彼はあくまでお金の為に、うまく立ち回るつもりなんだって。そんなの、うまくいくわけないし、そんなことを考える斗真も嫌なんだよ、私は。」


吐き出すように言った由理佳の言葉に、彩も思わず頷いていた。
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