Far away ～いつまでも、君を・・・～

「今の斗真は、明らかに背伸びをして、地に足がついてない状況で、焦ったように前に進もうとしている。私には危なかしく見えて、仕方ないんだ。」


「・・・。」


「最後に電話で話した時、言っちゃったんだ。『斗真が優秀なのは確かなんだろうけど、今の会社にいるから、成果が挙げられてる面も絶対にあるはずだよ』って。そしたら、大激怒された。」


「由理佳さん・・・。」


「言っちゃいけない言葉だったかもしれない。斗真にしてみれば、私に侮辱されたとしか聞こえなかっただろうからね。でも、今まで聞いたこともないような勢いの彼の大声を聞きながら、私の心は段々冷めて行った。そして思ったの、私は今はもう、斗真の側に居るべきじゃないって。距離を置こう、そう言った私に、彼は『勝手にしろ！』って叫んで、電話を切った。」


ここで、由理佳は寂しそうに、フッとため息をつくが、ここらへんの2人の話が食い違ってると、彩は内心首をひねる。


「私さ、仕事でしばらく地方に行くんだ。」


「転勤されるんですか？」


「ううん。ウチの会社で重要なシステム変更があって、私、そのプロジェクトの一員なんで、その教育の担当として、いくつかの支社を周るんだ。3か月くらいの予定なんだけど、もっと掛かるかもしれない。」


「そうなんですか・・・。」


「どっちにしても斗真には、しばらく会えなくなるんだ。だから、ちょうどよかったのかもしれない。勝手にしろって言ってたくらいだから、あっちはもう終わったつもりでいるのかもしれないし、そしたら例の娘さんとくっついちゃうのかもしれない。それはそれで仕方ないよ。」


「本当にそれでいいんですか？こっちを離れる前に、もう1度、ちゃんと先輩と話された方が・・・。」


慌ててそう言った彩に


「ありがとう。でもこうやって、彩に話を聞いてもらって、なんか自分の気持ちの整理がついた。今はもう、会わない方がいい。これ以上、斗真を嫌いになりたくはないから。」


目に涙を浮かべながら、しかし由理佳は、はっきりとそう言い切った。


「由理佳さん・・・。」


その由理佳の決意に、彩はもう何も言えずに下を向く。


「彩、ありがとうね。さ、せっかくだから食べよう、すっかり冷めちゃったけど。」


懸命に声を励ましてそう言った由理佳の「すっかり冷めちゃったけど」という言葉に、彩は意味深なものを感じないわけにはいかなかった。