Far away ~いつまでも、君を・・・~
「本当なら誘った斗真にも、誘われてOKした彩にも怒りを感じるところなのかもしれないんだけど、そういう気持ちに全然ならない。」


「由理佳さん・・・。」


「だってさ、長い出張がやっと終わって、さぁ明日は帰れるって、荷物整理してたら、久しぶりにあいつから電話掛かって来て。何かと思ったら、いきなり『なぁ、俺たちって、別れたんだよな』って。3ヶ月ぶりの連絡の開口一番がそれって呆れちゃったよ。」


そう言って苦笑いする由理佳。だけど、その言葉を聞いた彩の表情は固まる。


「出張前の斗真との電話は、私としては、あくまで一回距離を置いてってつもりだったし、彼にもそう言ったつもりだったんだけど、彼には伝わってなかったみたい。まぁ最後は売り言葉に買い言葉みたいな感じになっちゃって、お互い興奮して、何を言ったのか、言われたのかよく覚えてないのも確かなんだけど。」


「・・・。」


「彩は、そんな私たちがもう1度最後にちゃんと向き合う機会を作ってくれた。だから、怒るどころか感謝してるよ。」


「最、後・・・?」


思わずその言葉を繰り返した彩は、次にハッと由理佳の顔を見た。


「うん、電話だけど、冷静にちゃんと話したよ。結果もうお互いに気持ちがないってことを確認出来た。12年間、ありがとう、最後にキチンとそう言って、終わりにした。」


「で、でも・・・。」


「だから彩は、もう私のことは気にしないで、斗真のことを考えてあげて。」


「由理佳さん・・・。」


「今日はどうしてもこのことを彩に直接伝えたくて。私に遠慮とか、罪悪感を感じるとか、そういうのは一切なしに、自分の気持ちに素直になって欲しかったから。」


そう言って笑顔を見せる由理佳。だけどその笑顔がぎこちないことが、嫌でも伝わって来て


「由理佳さん・・・ごめんなさい。」


彩は思わず頭を下げてしまう。


「だから、彩のせいじゃないって。あいつが、私から心が離れたから彩の方を向いたのか、その逆かはわからないけどね。」


初めて会った時から自分が好きだったという斗真の言葉はどうやら由理佳には伝わってないようで、そのことにはホッとする彩。


「さ、行くか。」


そして由理佳は立ち上がる。


「由理佳さん・・・?」


「12年だよ・・・彩のホテルに見学行ったくらいなんだから、そういう気持ちで付き合ってた彼氏と別れたんだから。もう心の整理は付いてるつもりでもやっぱりさ・・・だから、今夜はこれから思いっきり飲んで、思いっきり歌って・・・オールで付き合ってもらうよ、彩。」


そう言って彩の顔を見る由理佳。


「はい、お供します!先輩。」


それに応えるようにスクッと立ち上がった彩に、由理佳は泣き笑いの顔で頷いた。
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