Far away ~いつまでも、君を・・・~
職員室に戻った尚輝は、席に居た京香に声を掛けた。


「美術部の後片付けは終わったのか?」


「だいたいね。ところで二階先生、今日町田先輩と遥さんが来てたよ。」


「えっ、マジ?」


「うん。ほら、ウチの部の町田さんが、県の美術展で優秀賞取ったじゃない。町田さんって、先輩の本家の娘さんだから。」


「そうだったな。」


「本家は娘さんの快挙に大騒ぎで、親族に必ず見に行けって号令掛けたみたいで。大部分の親族は、この後の県の展覧会の方に行くらしいんだけど、2人はせっかく今、母校の文化祭で展示してるなら、久しぶりに顔出しがてら見に行こうってことになったみたいで。」


「町田家は大変だなぁ。でも遥先輩、おめでただろ、大丈夫なのか?」


「だいぶお腹周りはふっくらしてたけど、悪阻も収まって、元気そうだったよ。高校の文化祭で妊婦さんは、かなり人目を引いてたけど。」


「そうだろうな。」


京香の言葉に、尚輝も思わず笑ってしまう。


「それでさ。」


ここで、京香はやや声を潜める。


「ちょっと凄いことを聞いちゃったんだけど。」


「えっ、なんだよ?」


釣られたように、声を潜めて尋ねる尚輝。


「彩さん、本郷先輩と付き合い始めたらしいよ。」


「えっ?」


恋人の意外な言葉に、尚輝はサッと顔色を変えた。


「それ、どういうことだよ。だって本郷先輩はずっと宮田先輩と・・・えっ・・・?」


理解が追い付かず、動揺を露にする尚輝に


「宮田さんとはいろいろあって、別れたんだって。それで今度は彩さんとってことみたい。」


対照的に涼しい顔で答える京香。話はいったんここで終わったが、帰り道、助手席で京香は口を開いた。


「遥さんから聞いたんだけど、彩さんは本郷先輩のこと、前から好きだったんだって。」


「・・・。」


「だから、尚輝は相手にされなかったんだね。」


その京香の言葉に、一瞬キッと厳しい視線を向けた尚輝だが、すぐに思い直したように前を向く。


「でも遥さんも言ってたけど、よかったじゃない、彩さん。長年の憧れの人とお付き合いできるようになって。」


「まぁ・・・。」


「それにしても、10年以上付き合った恋人と別れて、すぐに彩さん口説いた本郷先輩も、親しい先輩が振られて、すかさず後に納まった彩さんもなかなかやるよね。」


皮肉気な恋人の言葉に取り合わず、黙々とハンドルを握る尚輝だったが


(確かに彩先輩にとって、本郷先輩は憧れの人だった。だが・・・。)


なぜか、胸が騒ぐのを感じていた。
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