Far away ~いつまでも、君を・・・~
尚輝が解散を宣し、挨拶にくる部員たちを彩は笑顔で見送っていたが、他に誰もいなくなった途端、キッと尚輝を見た。


「あんた、私を嵌めたね?」


「えっ?」


「最初から今日、私に射たせるつもりだったんでしょ?」


そう言って鋭い視線を送って来る彩に


「はい。準備して来て欲しいって言ったら、絶対に先輩に断られると思ったから、先輩に一番体型が近いと思われるあの子に予備を用意させました。」


悪びれもなく、尚輝は答える。


「なんで?」


「先輩に射って欲しかったから、ここで。」


「尚輝・・・。」


「彩先輩にどうしても、一歩を踏み出して欲しかったんです。」


そう言って尚輝は真っすぐに、彩を見る。


「ここに来れば、どうしたって本郷さんを思い出す。立ち入るのだって嫌なのに、まして弓を握るなんて・・・先輩の辛い気持ちはわかります。でも先輩、ここは本当に先輩にとって忌むべき場所になっちゃいましたか?弓道は先輩にとって、もうただの辛い思い出になっちゃいましたか?」


「・・・。」


「俺にとって弓道は、先輩に近付く為の手段に過ぎなかった。でも俺は先輩に振られてそろそろ10年経つけど、未だに弓道に携わってる。弓道に出会わなきゃ、たぶん今こうやって教師をやってることもなかった。俺は弓道に感謝してる、そしてその弓道に出会わせてくれた彩先輩に感謝してます。」


「・・・。」


「先輩はどうですか?先輩にとっても弓道は、本郷さんに近付く手段だった。でも今、先輩は弓道に出会ったことを後悔してますか?弓道が嫌いになりましたか?たぶん違うと思いますよ。だって、傷付いて、こっちに戻ってきた先輩が一番最初に立ち寄った場所はどこでした?颯天高弓道部に居たことが黒歴史なら、OB・OG会の役員なんて引き受けないでしょ?」


その尚輝の言葉に、彩はフッと表情を緩めた。


「先輩が就職活動を始めたことは倫生から聞きました。それはそれで大切なことだと思います。でもその前に、彩先輩が彩先輩らしくいる為には、まずは弓道ですよ。違いますか?」


「尚輝・・・。」


「実は1つ提案があります。」


ここで尚輝も少し表情を緩めた。
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