Far away ~いつまでも、君を・・・~
「年が明けるとすぐに、地元の弓道協会主催の社会人対象の大会があるんです。」


「そうなんだ。」


「先輩、それに出てみませんか?」


「えっ?」


突然の誘いに、彩は驚きを隠せない。


「練習場所はここを提供します。先輩にはOB・OG会からの練習協力という形で部活に参加していただきます。部員の練習見ていただきながら、その合間に、アイツらと一緒に久しぶりに汗を流してみて下さい。先輩が前に進む原動力は、やっぱり弓道だと、俺は勝手に思ってます。だからそれを取り戻すために、もう1度、ここで俺達と弓道をやりましょうよ。」


そう言って、尚輝は熱っぽく彩を見た。2人はしばし、視線を合わせていたが


「そっか・・・全部あんたの筋書きだったんだね。」


ハタと気が付いたとばかりに言った彩は、次にニコリと微笑んだ。


「先輩・・・。」


その笑顔に、思わず胸が高まってしまった尚輝に


「あんたがそこまでお膳立てしてくれたんなら、ありがたくそうさせてもらう。その年始の試合も挑戦してみる。ただし1つだけ条件がある。」


そう言って彩は、尚輝を見た。


「その試合には、尚輝にも出てもらうから。いい?」


「えっ、俺もですか?」


「そうよ。あんたさっき、俺たちと弓道やりましょうって言ったよね。自分の言葉は守ってもらわないと。」


「いや、俺はいろいろ・・・。」


「忙しいなんて言い訳は通用しないからね。」


ピシャリと彩に決めつけられて、尚輝は何も言えなくなる。


「わかりました、先輩のご指示とあれば、異存はございません。よろしくお願いします。」


そう言ってしおらしく頭を下げた尚輝が、すぐに頭を上げ、視線が重なると、同時に吹き出した2人。でもすぐに笑いを納めた彩は


「尚輝、ありがとう。」


と言って微笑む。その笑顔にドキドキしながら


「とんでもないです。」


ややはにかみながら、尚輝が答えたところで、ガラッと道場のドアが開き


「尚輝、終わった?そろそろ・・・。」


と言いながら、中に入って来た京香は、次の瞬間、「帰ろうよ」と言う言葉を紡げずに固まってしまう。


「あっ、京香ちゃん。しばらく弓道部でお世話になることになったんで、ご迷惑かけちゃうかもしれないけど、よろしくね。」


慌てて取り繕うように、彩が明るく声を掛けるが、


「そうなんですか。」


と答えた京香は固い表情のまま、尚輝に厳しい視線を向けた。
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