Far away ~いつまでも、君を・・・~
果たして、部屋に戻ると、京香からLINEが入っていた。


『明日の練習って、彩さんも来るの?』


さっきまで会っていたのに、わざわざLINEで聞いて来た。


『ああ。でも葉山も来る予定だから。』


そう返信すると


『そうなんだ。じゃ2人によろしくね。遅くにごめん、おやすみ。』


明らかに安心したという雰囲気を感じさせる文章が、すぐに返って来た。おやすみ、と短く返信して、スマホを傍らに置いた尚輝は、ふっとため息をついた。


(京香・・・。)


たぶんそれを聞きたくて、ずっとやきもきしていたんだろう。千夏を誘っておいてよかったと安堵しながらも


(やっぱり、イヴにきちんとプロポーズしておけばよかった・・・。)


今更ながら後悔が浮かぶ。


(やはり、どっかのなるべく早いタイミングで、自分の思いをちゃんと伝えよう。)


尚輝は改めて、そう決意していた。


翌日は正午に学校に集合。


「なんか2年前を思い出しますね。」


新年の挨拶もそこそこに、はしゃいだ声を出した千夏が


「私はあの時の悩める乙女じゃなくて、現役バリバリの大学弓道部員なんで。今日はお2人の前に立ちはだかる分厚くて、高い壁になります。手加減しませんからね。」


一転そう言い放つと


「おっ、言ったな。」


「望むところよ、千夏ちゃん。よろしくね。」


尚輝と彩は笑顔で、受けて立つ。


こうして始まった練習は、試合形式を交えながら3時間ほど続き


「さっきは生意気言って、すみませんでした。やっぱり先輩たちは凄いです。」


顔を上気させた千夏が、脱帽と言った表情で言う。


「ううん、千夏ちゃんは間違いなく、私たちにとって、分厚くて高い壁でした。」


「お前に相手をしてもらったお陰で、実戦勘というか試合勘を思い出せたよ、ありがとうな。」


対する彩と尚輝も、満足そうな表情を浮かべながら、千夏に答える。


「私にとっても、いい練習になりました。私、後期試験があるんで、またしばらくこっちに来られないんですけど、お2人とも頑張って下さいね。」


「ありがとう。葉山も単位落とすなよ。」


その尚輝の言葉で、3人は笑った。


3学期が始まった。授業が終わり、部活も終わった後、彩と尚輝は短い時間ではあったが、一緒に練習を重ねた。もう2人きりなんてことは気にもせず、無駄口を叩くこともなく、ただ的に向かった。今の自分達の出来る精一杯の練習は出来た、と2人は満足だった。


そして、ついに試合当日がやって来た。
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