Far away ~いつまでも、君を・・・~
少し離れた観覧席からも、尚輝の集中力がぐっと高まって来たのが感じられる。そして、ゆっくりと所作に入った彼は、鋭い視線を前方に向けながら、弦を離す。


「お見事。」


彩の口から、思わず言葉が漏れる。全ての動きが、まさにお手本のようだと彩は思う。二射、三射・・・尚輝の放った矢は、着実に的を射抜いて行く。


「思い出すね。」


「えっ?」


「私の最後のインハイ予選の時、出番が終わった私は、こうやって尚輝を応援してた。後はあんたに託したから、頑張れって。」


「・・・。」


「そしてそんな私から離れた所で、京香ちゃんもそっと尚輝を見守っていた。」


「えっ?私が来てたことに気付いてたんですか?」


驚く京香に、頷いた彩は


「隠れるように、尚輝を応援してるあなたの姿を見て、私はあなたの気持ちに気が付いた。尚輝もスミに置けないなって思ったよ。」


そう言って笑う。しかし、その笑顔をすぐに納めると


「ごめんね。」


と京香に頭を下げた。


「彩さん・・・。」


その意味が分からず、京香が訝し気な表情になると


「ずっと目障りだったでしょ。私が尚輝の周りをうろついてて。」


彩が申し訳なさそうに、そう言ってきて、京香は驚いて彼女を見る。


「でも安心して。そろそろ消えるから。」


「えっ?」


「京香ちゃんに迷惑かけてることくらいわかってた。けど、アイツの優しさと思いやりに、つい甘えさせてもらっちゃった。正直、いろいろしんどかったから・・・。」


「・・・。」


「でもお陰様で、やっといろいろ吹っ切れて、また前に向かって進んで行こうって、思えるようになったから。」


そう言って笑顔を見せた彩は


「実は就職決まってさ。」


と京香に告げる。


「そうなんですか?」


「派遣なんだけど、ある会社の事務担当で、来週から来てくれって。」


「おめでとうございます。」


「ありがとう。ということで、とりあえず、これでニートからは脱却出来て、再スタ-トを切ることになりました。だから責任上、3学期の間は土曜日とか、行ける時には顔を出させてもらうけど、弓道部のコーチは勝手ながら、半年足らずで廃業ということになりました。」


「そうですか・・・。」


「本当に楽しくて、有意義な時間を過ごさせてもらった。アイツ・・・尚輝には感謝してる。そして京香ちゃんにも。」


彩がそう言い終わった時、その視線の先では、尚輝が見事五射目も的中させ、全中を達成していた。
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