Far away ~いつまでも、君を・・・~

合宿が終わると、間もなく世間はお盆休みに入り、練習は一時中断。


そして帰省者が増えるこの時期、颯天高弓道部は、OB・OG会を開く。これを楽しみにしている卒業生も多く、盛況となるのが通例で、今年も上は70代から、下は卒業まもない斗真の代までの、幅広い年代のOB・OGが出席の返事をよこしていた。


当日は、まずは母校の弓道場に集合し、実際に弓を引く。そんな人達も含め、参加者がチ-ムに別れ、対抗戦が行われ、結構盛り上がる。


現役生はこの日は、会の運営スタッフの立場。懐かしの母校の更衣室で、弓道衣に着替えた、様々な世代の先輩たちを部員たちは元気な声と笑顔で出迎えた。


そして、昨年は由理佳が、一昨年は斗真が務めた会のスタ-トを告げる矢渡しを、今年は彩が務め、数十人の先輩たちが見守る中、彩は見事に的を射抜いて見せた。


「さすがだね。」


大役を終えて、ホッと一息の彩に、そう声を掛けたのは由理佳。既に引退した由理佳たち3年生も、この日は在校生として、彩と一緒の立場で、会に参加していた。


「緊張しました。」


「わかるよ。私も足震えたもん。でもね、これやったあと、『あ、私主将になったんだな』って実感した。」


「そうですね。」


そう言って、笑い合う2人。


「でも斗真先輩の弓道衣姿、やっぱり決まってますね。」


そう彩が言うと


「恰好だけはね。弓持ったのなんて、それこそ1年ぶりだからね。どうなることやら。」


とやや心配そうに由理佳は返す。


「やっぱりそうなんですか?」


「大学生はいろいろ忙しいらしいよ。入学する前は、たまには弓引きに行こうかな、なんて言ってたけど、いざ入学したら、サークルとかいろいろ他に楽しいことがいっぱいあるらしくて、弓道どころじゃないみたい。」


と言った由理佳の声は、やや沈んでいるように聞こえた。


道場では、OB、OGたちによる試合が始まっていた。


先輩達は、的の前に立てば、みな一様に真剣な顔つきになるが、本当に楽しそうに、嬉しそうにしているのが、彩には印象的だった。


学校に設けられている施設を除くと、弓道場の数は決して多くはなく、そういったこともあって、既に競技としての弓道からは離れている人が圧倒的だ。だが、弓道は比較的運動量が少ないスポ-ツで、齢を重ねても、ブランクがあっても、出来ることが特徴であり、趣味としての弓道を続けている人は少なくないし、1年に1度、ここで弓を引くのを楽しみにしている人もいる。


和気藹々の雰囲気で、試合が進む中、いよいよ斗真が的の前に現れる。既に弓道部を引退して1年以上、その後、弓を手に取った回数も片手に余るくらいと聞いているが、その袴姿も所作も現役時代と全く変わらないように、彩の目には映った
< 31 / 353 >

この作品をシェア

pagetop