Far away ~いつまでも、君を・・・~
迎えたGW谷間の平日。この日、休日の彩は、買い物にでも出掛けようかと考えていた。するとスマホが鳴り出し、ディスプレイに表示されている名前を確認すると、サッと表情が固くなった。そこに表示されていたのは、斗真の弁護士である伊藤の名前だったからだ。


「もしもし、廣瀬です。」


緊張した声で出ると


『すみません、突然。』


聞き覚えのある、生真面目そうな声が響いて来た。


『実は先ほど、本郷の刑が確定しました。』


GWに入る直前、斗真に対する一審判決が下っていた。懲役1年、執行猶予が付かない実刑判決だった。伊藤はその日の夜にも電話を掛けて来て


『実刑は正直、ちょっと重いかなと思います。本人ともよく話してみますが、恐らく控訴することになるでしょう。』


と報告してきた。だが結局、斗真本人が控訴を望まず、検察側も控訴を見送った為に刑が確定したのだという。


「じゃぁ、斗真さんはこのまま刑務所に・・・。」


『そう言うことになります。奴としては、少しでも早く罪を償いたい、その一心のようです。』


「そうですか・・・。」


彩はポツリとつぶやくように答えた。


『それで、今日お電話したのは・・・本郷が廣瀬さんとお会いしたいと言っているので、ご意向を伺いたいと思いまして。』


「えっ?」


意外な言葉に、彩は驚く。


逮捕されてから、斗真は保釈申請もせず、収監されたまま、時が過ぎて来た。その間、彩は何度も面会を希望したが、拒否され、せめて裁判を傍聴させて欲しいと頼んでも断られていた。


その経緯を当然知っている伊藤は


『ご存じの通り、本郷はようやくご両親とは面会するようになりましたが、他の人とは一切会おうとせず、これまで過ごして来ましたが、刑が確定して、心境の変化があったのか、そんなことを言い出して・・・。今まで廣瀬さんからは、何度も面会の要望をいただいたのに、それを頑なに拒んで来たのは本郷の方なんですから、勝手なことばかり言ってると僕も思います。』


と申し訳なさそうに言ったあと


『だから、無理にとは言いません。ですが・・・これは弁護士としてではなく、奴の友人として言わせてもらいますが、出来たら会ってやってもらえませんか?』


懇願するような伊藤の言葉を聞きながら、しかし彩は答えを躊躇った。何を今更・・・正直そういう思いが、胸を過ぎる。


「申し訳ありません。少しお時間をいただいてもいいですか?」


すぐに気持ちを決しかねて、彩がそう答えると、わかりました、それではご連絡をお待ちしますと言って、伊藤は電話を切った。


結局、沈思黙考の末、彩が会いに行くと回答したのは、それから数日後のことだった。
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