Far away ~いつまでも、君を・・・~
受刑者との面談は、原則的には親族や弁護士や仕事関係者などに限定されているが、実際には申請をすれば、よほどのことがなければ認められる。


GWが終わり、仕事が落ち着いた休日。久しぶりに地元を離れた彩は、最寄り駅で伊藤と落ち合うと、彼の案内で刑務所に向かった。受付で所定の手続きを済ませた彩は


「じゃ、僕はここでお待ちしてます。」


という伊藤の言葉に送られて中に入った。一緒に面会することは可能なのだが、久しぶりの再会の恋人たちに弁護士が気を遣った形だ。


もっとも2人きりで会えるわけではない。面会時には刑務所の職員が同席することになっているからだ。通された面会室は、テレビドラマなどで見る通りの光景で、机がアクリル板で仕切られており、受刑者と直接触れ合うことは出来ない構造になっていた。席に着いた彩は、緊張の面持ちで、斗真が現れるのを待った。


待つこと数分、アクリル板の向こうの扉が開いた。そしてこれまたドラマで見る受刑者服に身を包んだ斗真が姿を現した。ゆっくり歩を進め、彩の前に立った斗真は深々と一礼すると、椅子に座った。


1年少し前、カフェで会話を交わしたのを最後に・・・彩からすれば、忽然と姿を消した斗真。以来、その姿を見ることも能わなかった恋人は、頬がこけ、顔は青白く、かつて彩が憧れ、愛した面影はすっかり失われていた。


会ったら、まず何を言おうか。ずっと考えてきたつもりだったのに、いざ彼の顔を見ると、言葉が出て来ない。すると斗真の方から


「久しぶりだね。元気そうで・・・よかった。」


と声が掛かる。


「今日は、来てくれてありがとう。」


「はい・・・。」


ここで一瞬会話が途切れたが、すぐに


「彩。」


斗真が呼び掛けて来る。


「君には・・・本当に迷惑を掛け、そして辛い思いをさせてしまった。」


「・・・。」


「謝って済むことじゃないことはわかってる、許してもらえるとも思ってない。だけど、今の俺に出来ることは、こうやって頭を下げることだけだ。彩、本当に済まなかった。」


そう言ってまた、深々と頭を下げた斗真を、彩は沈痛な面持ちで見つめていたが


「その言葉を、せめてもっと早く聞きたかったです。」


絞り出すような声で言う。


「なんで、今まで会ってくれなかったんですか?いくらなんでも遅すぎる・・・。」


「すまん・・・自分でも卑怯だとわかってた。でも・・・彩に合わせる顔がない。彩に会うのが辛くて、いや怖くて・・・ずっと逃げて来た。自分で自分が情けない・・・。」


そう言った斗真に、彩は悲し気な視線を送った。
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