Far away ~いつまでも、君を・・・~
エピロ-グ
それから1年が過ぎた。


今年もインハイ予選が終わり、3年生たちが涙と共に部活を引退して行き、新体制になってから約1ヶ月。この日は日曜で、期末考査前の部活休止期間であり、颯天高校は静けさに包まれていた。ある一角を除いては。


どう見ても高校生ではない、しかし保護者にしてはやや若い面々が、続々と校門を通り、弓道場のある離れに向かっていた。


颯天高恒例の夏のOB・OG会にしては、時期が早過ぎた。また弓道場前に設けられた受付に立っているのは、現役の部員たちではなく、OGの廣瀬彩と宮田由理佳の2名だった。


「久しぶり~。」
「今日はありがとうございます。」


彩も由理佳も、来場者とにこやかに話しながら、受付を進めている。


この日は、1年の刑期を終え、出所した本郷斗真を激励するための会が開催されるのだ。斗真に面会に行った時の約束を、彩は忘れてはいなかった。


斗真と部活を共にした上下5世代のOB・OGに呼び掛けると、30名ほどが参加を申し出てくれた。予想以上の反響だった。


会場として、学校施設を使うことは、正直反対が多かったが、部活顧問の二階尚輝が、OB・OG会のバックアップも得て、根気強く交渉した結果、ようやく承認が降りた。


道着に着替えた参加者が、弓道場に集合したところで、一同の前に姿を現したのは、彼らをかつて指導した元顧問の児玉光雄。


「久しぶり。みんな元気そうで、また立派になって、俺も嬉しい。そして、今日は本郷の為に、忙しい中、集まってくれてありがとう。俺が長話をしても仕方がないから、さっそく始めよう。本郷、入って来い。」


児玉が呼び掛けると、やや俯き加減に斗真が入って来る。そして、まず深々と一礼すると、緊張の面持ちのまま、口を開いた。


「本日は僕の為に、同期の仲間だけでなく、先輩のみなさん、後輩のみんな、それに児玉先生にまでおいでいただき、感謝の言葉もありません。本来なら僕はみなさんの前に顔を出せる立場ではなく、颯天高弓道部OB・OG会から除名されても文句は言えません。にも拘らず、このように暖かく迎えていただき、心が震えます。今振り返って、自分の愚かさがただただ恥ずかしく、後悔するばかりですが、しかし自分の犯した罪は消えることはありません。これからは、せめてもの償いとして、何事にも真っすぐに誠実に生きていくことをみなさんにお誓いして、挨拶とさせていただきます。本日は本当にありがとうございました!」


そう言って、斗真が一礼すると、大きな拍手が巻き起こった。
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