Far away ~いつまでも、君を・・・~
この日は、まずはブランクの長い参加者の為に、ある程度の練習時間を取り、そのあとに卒業年次別の対抗戦が行われる。


今日の無事を祈っての矢渡しは、斗真自身が務めることになっていた。一同の注視の中、的前に立った斗真は、さすがに緊張の面持ちだったが、見事に的を射抜いて見せた。


「さすが主将、やるな~。」


同期の声に、照れ臭げに笑った斗真に


「いつ以来かって思うくらい、真剣に練習したもんね、斗真。」


由理佳から声が掛かり、道場内は笑いに包まれる。


そして、練習が始まり、談笑しながら、和気藹々といった先輩たちの様子を、尚輝は少し離れた所から見守っていた。彼自身は斗真とは部活在籍が重なっていないので、今日はあくまで現顧問としての立会人の立場だった。


「二階。」


そんな尚輝に声を掛けて来たのは、児玉だった。


「今日はいろいろありがとう。」


「いえ、先生こそ、今日はありがとうございます。」


「久しぶりにここに足を踏み入れさせてもらって、教え子たちに囲まれて、弓も引かせてもらって、感無量だよ。もっとも最近は弓道から遠ざかっているから、元顧問の面目は丸つぶれだが。」


児玉は、そう言って苦笑いしたあと


「でも、随分苦労したんだろ?今日の為に。」


と尋ねる。


「いえ、大したことは・・・。」


言葉を濁した尚輝に


「廣瀬から聞いてる。尚輝が頑張ってくれなかったら、絶対に出来ませんでしたって。」


児玉は温和な表情で言う。


「惚れ直したみたいだぞ。」


「止めて下さい。」


照れる尚輝に、表情を崩した児玉は


「そう言えば、改めておめでとう。」


と声を掛ける。


「ありがとうございます。」


「年明け早々だよな。」


「はい。その時期だと、結構安く挙げられるって、彩から聞いたもので。」


「そうか、さすが元ウェデイングプランナ-だな。」


と笑う児玉に


「それにしても、高校時代、随分廣瀬を追いかけまわしていたのは知ってたが、とうとう捕まえたな。大したもんだ。」


冷やかすように言われ


「勘弁してください。」


尚輝は思わず、顔を赤らめた。


「ハハハ。教え子同士が結ばれて、式に呼んでもらって、教師冥利につきるよ。当日は楽しみにしてるぞ。」


「はい、ありがとうございます。」


尚輝の肩をポンと1つ叩いて、児玉は離れて行った。
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