Far away ~いつまでも、君を・・・~
結局、2時間ほど歓談した後、会はお開きとなった。京香と秀は、当然帰る方向も一緒だったが


「彼女を送り届けるのは、彼氏の大切なお役目。それを奪うような無粋な真似はしねぇよ。じゃあな。」


と笑うと、一足先に車に乗り込み、帰宅して行った。そんな秀を見送ったあと


「ちょっとドライブしていかないか?」


「うん。」


尚輝の誘いに、京香が頷き、彼らも出発する。尚輝と京香は、6年間遠恋を続けて来た。ちょうどお互いに1時間くらいで着ける中間点があり、遠恋という言葉の響きほど、会えなかったわけでもないが、それでも同じ大学内のカップルと一緒のようなわけには行かなかった。


そして今、同じ職場に勤め始めた2人。確かに今までに比べれば、数段一緒に過ごす時間は増えたが、それが全て恋人としての時間というわけでもない。


それだけに、今のような時間が、2人にとっては、大切なひと時であった。少し車を走らせた2人が降り立ったのは、近くの山の中腹にある展望所のパーキングだった。


手をつなぎ、展望所まで歩いた2人は、並んでここから眼下に広がる街の灯りを見つめる。この夜景を求めて、他にも何組ものカップルが訪れていた。


「きれいだね。」


「ああ。」


「尚輝とこうしていられると、帰って来てよかったなと思う。」


「俺も京香のぬくもりが感じられて、嬉しいよ。」


そう言って、2人は見つめ合い、笑顔を交わす。


「GWは、ずっと部活だよね。」


「全部じゃないよ。ちゃんとデートも出来る。」


「じゃ、よかった。」


「美術部は何もないの?」


「運動部とは違うからね。」


尚輝同様、京香もかつて自分が所属した美術部の顧問を務めている。


「でも秀も言ってたけど、尚輝がここまで弓道にはまるとはなぁ。」


「そう言われると、まぁ確かにそうかな。」


尚輝は頷く。


「彩さんの為?」


「えっ?」


「彩さんとのつながりを切りたくないから、弓道を続けてるの?」


突然、そんな風に問い掛けられて


「なんだよ、急に。」


尚輝は驚く。


「実際どうなのかなと思って。」


と上目遣いで尋ねる京香。


「あの人は、弓道を始めたきっかけではあったけど、今も俺が弓道に関わってる理由じゃない。それに、あの人はもう弓道を辞めてるはずだぜ。」


笑顔でそう答えた尚輝の顔を、少し眺めていた京香は


「そっか。」


と言うと、尚輝に身を寄せて行った。そんな彼女の肩を、尚輝はためらうことなく、抱き寄せていた。
< 88 / 353 >

この作品をシェア

pagetop