れんれんと恋するための30日


蓮は幸の順番が分かると、人混みをかき分けて、ゴールが一番よく見える場所まで走った。
幸のグループは五番目のスタートだ。
長い髪をポニーテールにして青いハチマキを巻いている幸は、本当に可愛かった。

でも、ヤバい…
俺の方が緊張して吐きそう…

子どもの頃、幸は足が速かった。
幼稚園のかけっこも、いつも一等賞だった記憶がある。
でも、福が亡くなってからは、全く運動会で目立たなくなった。
まるで、走ることを忘れたみたいに…

そんな幸が今こうしてスタート地点に立っているだけで、その奇跡に、蓮の胸の奥から嬉し涙がこみ上げてくる。

その前に俺の心臓がはち切れそうだ。
幸、無事にゴールしてくれ…


パン。

そこから蓮の目に映る幸の姿は、まるで、スローモーションのように流れていく。
スタートがちょっとだけ遅れた幸は、中々、前のグループに追いつけない。

幸、頑張れ、福も見てるぞ、あきらめるな…

蓮の思いが届いたのか、幸は後半でぐんぐん追い上げた。

幸、あと一人だ、幸、頑張れ…



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