千燈花〜ETERNAL LOVE〜
 なんだったのよ…とぼとぼと橘宮(たちばなのみや)へと戻った。いつの間にかこの桃林までの道を覚えてしまった。東門を抜けると帰りを待ち伏せていたかの小彩(こさ)が飛んできた。

 「燈花(とうか)様、お帰りなさいませ!林臣(りんしん)様の御用はお済になりましたか?」

 「たぶんそう思うわ…」

 曖昧な感じで答えた。実際何の用だったのかよくわからないが、それよりも疲労と寝不足でフラフラだ。部屋に戻るとすぐに寝台に倒れ込んだ。

 「燈花(とうか)様、大丈夫ですか⁈」

 小彩(こさ)が心配そうに見た。

 「大丈夫よ。朝…蓮の花を見ていたのよ」

 「蓮の花でございますか?蓮の花なら昼間でも見られますのに…」

 小彩(こさ)が首を傾げた。

 「ところが林臣(りんしん)様曰く、早朝開く蓮の花が一番美しいそうよ…」

 「さようでございますか…」

 小彩(こさ)がポカンと答えた。

 「ところで、燈花(とうか)様お腹が空いてはいませんか?」

 「大丈夫よ。それよりも眠くてたまらないから少し寝るわ…お昼過ぎに起こしにきてくれる?」

 「承知しました」

 小彩(こさ)が部屋から出ようとした時、最後に思い出したことを聞いた。

 「それと、月杏(げつあん)という名を知っている?」

 「もちろんでございます。月杏(げつあん)様は林臣(りんしん)様の第一夫人、正室のお方です。有力豪族の葛城(かつらぎ)氏出身で家柄も大変良いため先代の馬子(しま)様に見初められ、幼い頃より林臣(りんしん)様の許嫁でした。数年前に嫁がれてこられたのです。普段は嶋宮(しまのみや)にはおられないはずですが…お会いになられたのですか?」

 「…いえ、会ってはいないわ…ただほんの興味で聞いただけよ。ありがとう」

 外はジリジリと夏の陽射しが照り返していたが、部屋には裏山からの涼しい風が入ってきた。

 まぁ正室がいるのも当然ね…有力豪族の娘か…蘇我氏らしいわ…はぁ、疲れた…

 すぐに深い眠りについた。
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