もう一度、君に恋する方法
スマホが震える音で目が覚めた。
ブルブルとうるさく振動するスマホを手探りしながら、こんな時間に目覚ましかけたっけ、とぼんやり思い返す。
目覚ましを切るために指先を走らせようとして、「ん?」と思わず顔をしかめた。そこに表示されていたのは着信画面だった。通知先は、園からだ。
ざわつく胸に手を置いて、おずおずと電話に出た。
「はい、もしもし」
「水野さんのお電話ですか?」
その声の続きを聞いて、自分の顔がさっと青ざめていくのがわかった。
ばっと壁の時計を見た。11時半だった。
__一体どれだけ寝てたんだろう。
「はい、すみません。すぐに迎えに行きます」
そうだ。今日は午前保育だ。一学期の最終日だから。
明日から、夏休みだから。
明日から私、生きていけるだろうか。
考えるだけで、気が遠くなる。
一日中、子供と三人で、家にいられるだろうか。
もう地獄絵図しか浮かんでこない。
怒鳴ってわめいて、家事に追われて、思うように家事も進まなくて、やっぱり怒鳴って叫んで、ばたりと倒れこむように眠り落ちる。前日の疲れもまともにとれないまま、また朝が来て、昨日の疲れを引きずったまま、新しい一日をスタートさせる。
そんな繰り返しの毎日を。
まぶしすぎるくらいの朝の光をにらみつけて、二学期が始まるまでの日数を数える日々。
想像するだけで、夏なのに寒気がする。
立ち眩みを覚えながら玄関に向かおうとして、ぴたりと体が止まった。私の目に飛び込んできたのは、朝と何も変わらない光景だった。語るのも面倒になるその雑多な光景。そして、はっとなって慌ててよろけるように洗面室に向かった。
抱き着く勢いで洗濯機の前にたどり着く。そして締め切られた洗濯機のふたを勢いよく開けると、予想以上にもわりと気持ち悪く、ぬるい空気が舞い上がった。
洗濯槽の中で洗濯物は絡まり、すでに部屋干し臭が漂い始めている。
洗濯機に両腕をついた。そうしないと、体が支えられない。
__どうしよう。
震えそうになる手と、あふれそうになる涙を抑え込んで、私はかぶりを振って玄関に走った。