天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 しっかりとした口調で断言され、城戸さんも押し黙った。

「ちゃんと想いを伝えてきっぱりフラれないと、いつまでもこの恋を過去にできない。私も弱い自分を変えるために、けじめをつけたいの」

 意を決したように揺らがない彼女の声を聞いて、はっとした。

 望さんも同じなのだ。なにも始まらないとわかっているのにその恋を吹っ切れなくて、囚われていた少し前までの私と。そう思うと、彼女の意志を無下にはできない。

 複雑な心境で思いを巡らせていた時、テーブルの上で誰かのスマホが短く鳴った。望さんが動き出す気配がするので、彼女にメッセージが来たのだろう。

「まだここにいるって言ったら、迎えに来てくれたみたい」
「婚約者?」
「うん、今日待ち合わせしてたのも彼。……いい人なのよ。好きになれたらラクなのにね」

 切なげに笑うのがわかって、最後のひと言が重みを増したように感じた。望さんは本当にこのまま結婚するつもりなんだろうか。

 彼女は腰を上げ、気持ちを切り替えるように声色を明るくする。

「じゃあ、莉真さんのことよろしくね。送り狼になっちゃダメよ」
「なりたいところだけど我慢するわ」

 冗談か本気かわからない城戸さんの返事に笑った彼女は、コツとヒールを鳴らして去っていった。

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