天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 莉真の顎に拓朗が手を添え、キスをしようとしているように見えるワンシーン。場所は、以前彼らが飲み会をしていたスペインバルだ。一体誰がこんなものを……。

「〝ふたりが不倫している〟という文言つきだった。これを見る限りでは、確かに親密そうではあるな」

 父は俺を試すような調子で言い、腕組みをしてデスクチェアにもたれた。一瞬動揺させられそうになり、どす黒い感情が湧いてくるのを抑えて考えを巡らせる。

 拓朗が莉真を本気で好きなのだと気づいたのは、まさにこの日。迎えに行った時、莉真に向けるあいつの切なげで愛おしそうな表情を見た瞬間に直感した。

 それまでは他の女性に対するのと同じように、軽い調子で甘い言葉を吐いているだけだろうと思っていた。だが、あいつがひとりの女性の前であんな顔を見せるとは。一気に焦燥と嫉妬に駆られると同時に、迎えに行ってよかったと安堵も覚えたのだった。

 しかし冷静に考えれば、過ちなどはなにもなかったと断言できる。

 もしなにかあったならわかりやすい莉真はその後の態度に出るだろうが、特に疑わしいことはないから。なにより、莉真が俺を裏切るようなマネをするはずがない。

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