天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 髪はシニヨンスタイルで紅いフレームの眼鏡をかけている、おそらく三十代後半の小柄な彼女。笑顔を見せないクールな女性なのだが、「よろしくな」と男前に挨拶されてちょっとときめいてしまった。

 カッコいい彼女に案内されてやってきたのは、まるでデイトレーダーの部屋のようにたくさんのディスプレイが並ぶフロアの一角。

 窓の向こうには羽田空港の滑走路や実物の飛行機が見えるが、映像には別の飛行場がリアルタイムで映し出されている。

 今日から私はこの映像を見ながら、他飛行場援助業務というものを行う。ここが管轄している離島、三宅島や八丈島などの空港に離発着する航空機に対して、遠隔で情報を提供するのだ。

 つまり、今度は私がリモート管制を行うということ。情報を提供するのはこれまでと同じだが、管制塔から実際に滑走路を見られるわけではないので感覚はまったく違う。

 研修でやって以来なので緊張しつつ添田さんの後をついていくと、その先にディスプレイを監視しているひとりの男性の後ろ姿がある。

 彼が一緒に仕事をする仲間だろうか、と思った瞬間……。

「城戸!」

 添田さんが呼んだ名前に、私はぎくりとした。直後、こちらを振り向いた彼と目が合い顔が引きつる。

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