天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
「目をきらっきら輝かせて『どうやったら情報官になれるんですか?』って聞いてきた君が、今立派に一人前になってるんだもんな。俺も嬉しいよ」

 ……城戸さんも覚えていてくれてるんだな。感慨深そうに言われて、嬉しさと切なさが込み上げる。

 胸がいっぱいになるのを感じながらまつ毛を伏せた。見下ろした先には航空機とのやり取りを記したログと呼ばれるメモがあり、城戸さんの走り書きが残されている。

 そこに書かれた時刻を見ると、もうすぐ三宅島にセスナが到着するようだ。

「ここでは初心者同然なので。城戸さんのお手本を見せてください」
「だね。仕事終わったらゆっくり話そう」

 いや、それは遠慮したい……と内心思ったものの、城戸さんは飛行場の映像と風の情報を確認して無線のマイクを手に取る。

 スイッチが入ったようにすっと変わる彼の横顔と、紡がれる管制英語を久々に耳にしてまた複雑な気持ちになった。

 普段は軽いのに仕事になると途端に真剣になる、この姿に私は惹かれたのだ。うっかり恋心が復活してしまわないよう、彼からモニターへと目線を移す。

 この彼と一緒にいて、私はきちんと仕事に集中できるのだろうか──。


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