可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─

今までサイラスの講義はサイラスの執務室にて行われてきた。だが、今日ベアトリスは魔王城の裏庭に来るように言われていた。新しい課題が始まるとのことだ。


「ほ、本当にここでやるのかしら」


裏庭には食魔植物が棲息していた。


うねうねした太い茎の先っぽに、人間国でいうヒマワリの花にそっくりの顔がついている珍妙な生物の名は食魔植物パクンだ。


左右に裂けた口の中には凶暴な歯が綺麗に並んでいる。


魔族の中でも最硬度の歯を持つ植物で噛みつかれたら一瞬で死。近づくのはおすすめしないと指導されたと記憶している。


ベアトリスが城の影から裏庭を伺うと、習った通りにガチンガチン硬い歯音を鳴らしたパクンが大量発生してうねっている。



(うわぁあ……恐ろしい光景ですわ)



ベアトリスは初代魔王様の加護があるので攻撃されても平気だ。

だが、うかつに襲撃など受けたくないのが女心である。


「では始める」


いつの間にか隣に立っていたサイラスに背中を押されて、ベアトリスが裏庭に足を踏み入れる。パクンのテリトリーだ。


ベアトリスの加護はすっかり信頼してしまっている先生のサイラスには反応しない。


食魔獣植物パクンの茎の先っぽがうねうねとベアトリスに照準を合わせているのがわかる。



「サイラス様?!何をなさるのですか?!説明がなさ過ぎますわ!」

「パクンがお前を襲うから、この裏庭からパクンを退けろ。殺せとは言わない。退けるだけでいい」

「どうやって?!」

「最初は何を言っても無駄だ。さっさとやれ。戦闘開始だ」

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