可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ジンの出陣を見送り、ベアトリスは中庭の端までゆっくりと歩いた。魔国民からの視線が突き刺さる。城壁の端に位置した石の凹凸の上によじ登り立ち上がる。


魔王様が望んだ王妃としての役目を全うする。

それが、ベアトリスの魔王様への愛だ。


「人間ごときに何ができるんだか」


そんな誹りがベアトリスの四方から聞こえてくる。だが、ベアトリスは平気だ。揶揄は慣れている。泣きたくもならない。


「ぷるん様!魔王城全体を、加護の範囲にしてくださいませ」

「ぷるん!」


ベアトリスの願いを受けて、ぷるんがどんどん巨大化を始めた。


「魔王様とサイラス様、エリアーナ様が帰還された時は無条件にお通しを」

「ぷるん!」

「それ以外の出入りは一切拒否ですわ!」


ベアトリスが細かい条件をつけてお願いすると、快諾したぷるんは魔王城と中に集まった魔国民をどんどん取り込んでいく。


「うわああ!なんだこれ!」

「なんなの気持ち悪い!」

「やめてよ!!」

「ぎゃああ!やややめろ死ぬ!」


薄青いぷるんの身体に取り込まれることが加護対象になる条件だ。少し生温いだけで、百利あって一害なしの素晴らしい加護である。


だが有象無象の魔国民たちは半狂乱で加護を拒否して喚き散らし、魔王城内は地獄かと思われる悲鳴に満ちた。


「私が皆さんを、お守りいたしますわ」


城壁の端、石の上に立ったベアトリスは両手を腰に当ててにこりと笑う。魔国民は手足を見て異常がないことを確認し、ベアトリスを睨みつけた。


「エラソーに、何が守るよ」

「弱っちくて何もできねぇくせに」

「俺は人間なんて認めない」


舌打ちを隠すような知恵もない連中だ。だが、ジンの「仲良くいい子で待つように」命令と「生贄姫に危害を加えるのは禁止」命令が効いているのか、誰もベアトリスに襲い掛かってはこなかった。


人間王妃と魔国民の隔たりは大きく、この非常時でも少しも埋まる気配がない。

      
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