可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─

なんてね、と魔王様は倒錯的な甘い笑みをこぼす。


ついには脅迫めいてきた。ジンの纏う真剣な空気にどこまで本気かなんて聞くまでもない。


ベアトリスはジンの重篤な愛語にゾクゾクした。だが、ベアトリスの背筋に奔ったゾクゾクは怯えではなく、至福だった。



「私、愛する人のお願いには抗えませんの」



魔王様直々の裏切ったら何をするかわからないなんて、こんな脅迫めいたプロポーズ、受ける方がどうかしている。


だが、ベアトリスは人間国に帰らず魔国に居座ってでも生きようとした女だ。もともと、どうかしている。



「どんなに嫌われても魔国の王妃を務めるのが、愛する魔王様の願いですわね」



ベアトリスは差し出されたジンの冷たい手を取って、強く大地を踏みしめて立ち上がった。金色の豊かな波髪が美しく風になびく。



ベアトリスが今まで一人で気丈に生きてきたのは

おじい様が「強く生きて、幸せになりなさい」と言ったから。



ベアトリスがアイニャの死に泣こうとしなかったのは

「幸せに」とアイニャが願ったから。



愛する人の願いに寄り添うためなら、どんな困難であろうと堂々と立ち向かう。



それが、ベアトリスの愛の形だ。



「望むところですわ。

このベアトリス、魔王様の願い通り

見事な王妃となってみせましょう」



離婚前提の生贄姫は、魔国の真の王妃となることを宣言した。

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