不埒な上司と一夜で恋は生まれません
回想を終えた今、耀の手はもう離れている。
よしっ。
今だ、しめしめっ、と和香は慌てて、床に転がっていたバッグをつかみ、一目散に耀の家から逃げ出した。
バタン、と玄関扉を閉めたあと、一応、近くにあった煉瓦を扉前に置いてみる。
泥棒が開けようとしても、すぐには開かないように、と思ったのだが。
よく考えたら、この扉は内側に開く扉だった。
意味がない。
内開きの扉は不審者を押し出すように閉められるので、防犯上はいいのだが。
靴を脱ぐ文化のある日本ではあまり浸透していない。
玄関の内側に扉が入ってくると、邪魔になるからだ。
だが、この広い玄関だとそんなことも気にならないんだろうな。
なんか輸入住宅かもしれないし、と見上げた和香は、ハッとした。