「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
(わたしのバカ)

 腐れ縁ってなに? そこは幼馴染だとか親友だとか、もっと適切な言葉があるのに。わざわざ腐れ縁だなどという言葉のチョイスをする?

「わたしはともかく、お父様やお兄様は、そんなことを恩に着せたりしないから安心して。だけど、よかったわね。いい剣の先生に出会えて。あなたは剣の才能があるんだし、上達してさらに強くなるわよ」
「ありがとう。強くなれば、きみを守ることが出来る」

 彼の美貌がまぶしいくらい。

 小鳥たちの囀り以外静かなこの空間で、心臓のドキドキばくばくが彼にきこえやしないかと冷や冷やしてしまう。

「期待しているわ。でも、あまり無理をしすぎないでね。ケガをしたり体を痛めたりしたら元も子もないから」
「忠告ありがとう」

 彼は剣を握らない方の手を上げると、背中を向けてガラス扉から庭へと出て行った。

 心臓の高鳴りは、しばらくの間やむことはなかった。

(医者に診てもらった方がいいのかしら?)

 真剣に考えた朝だった。

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