「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「やめろ、やめろって、カヨ。誤解だ。誤解なんだ」
「抗弁はききたくないわ」
「だから、誤解なんだって。なにもしていない。あらゆる神々やきみの家族に誓ってなにもしていない」

 彼は、両腕でわが身をかばいながら叫んだ。

 あらゆる神々はともかく、家族を引き合いに出され、おもわず彼に枕を叩きつける手を止めてしまった。

「きみが長椅子から落ちかけていたから、やはり狭いんだと思ってそっと寝台に移した。そのときにきみをお姫様抱っこをしただけで、それ以外は指一本触れてはいない」

 彼は両手でわが身を守りながら、オドオドした表情でわたしの動きをうかがっている。そして、わたしがこれ以上枕で叩かないと判断したらしい。腕をおろし、背筋を伸ばした。

「だいいち、そそられない」
「はい? いま、なんて言ったの?」

 彼の美貌には、ムカつくほどニヤニヤ笑いが浮かんでいる。
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