「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「ああ、くそっ」

 おもわず、声が出てしまった。

 彼女の体は、予想以上に重かった。それはともかく、すごくやわらかい。しかも、ローズの香りがふんわりと鼻腔に侵入して来る。

(おれの理性よ、耐えろ。いまこそ、騎士道精神を発揮するときだ)

 何度も自分に言いきかせる。

 おれは、一応剣を学んでいる。その精神や作法とともに。

 理性をかろうじて保っている間に、彼女を寝台の中央に移すことが出来た。

 彼女は、小さな寝息を立てているだけで目を覚ます気配はない。

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