「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 華奢に見えていた彼女の体に上掛けをかけ、寝台からおりようとした。

 が、その寝顔が尊すぎて、もうしばらく側で見ていたいと思った。

 だから、彼女の横に身を横たえ、左肘をついて彼女の寝顔を堪能した。

 どれだけ時間が経ったのだろう。

 ハッと気がついたら、月光が弱くなっていて、夜から朝にかわりつつある空気の独特のにおいと鋭い冷たさが室内に満ちていることに気がついた。

「うう……ん」

 彼女のうめき声にドキッとした。

 焦っていると、彼女の瞼がピクピク動き始めた。

(うわっ、マズい)

 が、同じ姿勢でずっといたせいか、左肘も含めてすっかりかたまってしまっている。頭の中では寝台から離れようとしているのに、体はまったく動かすことが出来ない。
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