「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 留学していれば、その国で生活していただろうか。その国の貴族子息と結婚し、子どもの一人や二人産んで平凡でもしあわせな家庭を築いていただろうか。
 
 いいえ。それはないわね。
 
 自分で言うのもなんだけど、わたしに平凡とかしあわせとかは似合わない。すくなくとも、そんなことは出来ない。
 
 日常や平凡ということほど難しいことはない。それがわたしの持論。
 
 それはともかく、そういうわけで皇都と皇都からセプルベタ領への街道沿いの景色程度しか見聞きしていないわたしにとって、馬車の窓外の景色は残念ながら刺激的でも面白くもない。
 
 これぞ田舎。地方なのね、としか思いようもない。
 
 あいかわらずクストディオとの会話はなく、二人ともそれぞれの側を向いて窓外に流れゆく景色をボーッと眺めているだけ。
 
 途中から、なんらかのアクションを起こすことを諦めた。というか、起こすことを考えることをやめた。そうと決めてからは、心も頭も軽くなった。だから、ボーッとしている。
 
 おそらく、それはクストディオも同じに違いない。

 馬車内の空気が軽くなったように感じる。

 彼とこうして肩を並べていても、居心地が悪くなくなった。

 むしろ安心してボーッと出来る。

 空気がかわってからというもの、わたしたちは同じ無言でも心地よく旅を続けることが出来た。
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