天使が消えた跡は

 あの後、意識を無くした薫をルーが保健室まで運んでくれたらしい。

 そして、ルークが傷を回復。かなり出血していたが、すぐにルークが治してくれたので、大事には至らなかった。

 でも、絶対安静にしていなければ、貧血程度では済まないだろうとのこと。

「起きたのね」

 保険医の先生も顔を出し、今日これからと数日間はゆっくり休むように言われた。

 ルークに抱きかかえられ、寮まで連れて行ってもらう。

 安心感がとても大きい。私は生きて戻ってこれたんだ。

 さすがのルーも今日は薫の頭に乗ることは無く、ルークの頭に乗って薫の心配をしていた。



 3日後、終業式があった。明日からは夏休み。薫の体調も、毎日のルークの看病のおかげか順調に回復していた。

 式が終わった教室で先生を待っているとクラスメイトの一人が子犬を連れてきた。

「生徒玄関のところで座ってたんだ。可愛いから連れてきちゃった」

 そう言う女子生徒は床に子犬を下ろす。

「先生に見つかったら外に戻せって言われるんじゃない?」

「でもほんと可愛いよね」

 そんな言葉を聞いて薫も気になり顔を出して見に行くとその子犬はじっと薫の顔を見ている。

 薫にはこの子犬に見覚えがあった。

「その犬から離れて! 鷹の仲間だよ!」

 悪魔の式神だと直感した薫はすぐに叫んだ。

 3日前のこともあり周りに居たクラスメイト達はすぐに廊下に出たり、教室の角に集まったりして恐怖の色を隠せないでいた。

 子犬の周りには薫しかいない。その状態で数秒後、犬の身体から黒い煙のようなものが出てきた。

「……何あれ!?」

 『今度は何をしてくるの? 体力も完全に回復していない、こんな状態で立ちむかえられるのかな……。

 それに教室内でクラスメイトに何かあったら……』

 いろいろな思考が頭の中でぐるぐると駆け巡る中、その犬はそのままどす黒い塊となって溶けて消えてしまった。

「あれ?」

 呆気にとられる薫に、後ろから女の子が声を掛ける。

「私占いとかやるんだけど、聞いたことがあるの。悪魔に身体を売った人間は、一週間ごとに悪魔を作り出せるって。

 逆に一週間経ってなかったら悪魔を作り出せないって」

 前回鷹に襲われたのは3日前。その話がどこまで現実味を帯びたものかは分からないが、未完成だったのは間違いなさそうだ。

 サラクにとっての最後のあがきだったのかもしれない。

< 25 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop