【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
プロローグ
 外は闇に呑まれながらも、空にはいくつかの星が瞬いている。
 新月である今夜は、星の光だけでは心もとなく、ランプの明かりを頼りに歩く必要がありそうだ。
 ランプといっても魔力を用いた魔導ランプである。使用する者の魔力に反応して、ぼんやりと橙色に光っている。
 彼女が向かっているのは、騎士館と呼ばれる騎士たちのための建物。一階の一番奥の部屋だけ、煌々と明かりがついていた。ほかの部屋の窓からは、微かな明かりが漏れ出ている。
 青空の下では太陽の光によって輝いている白い外壁も、闇の中では真っ黒に染められていた。
 彼女がフードを深くかぶっているのは、もちろん顔を見られないようにするため。
 だが、こんな真夜中に外を歩いているのは彼女くらいだ。
 建物に近づくと、魔導ランプの明かりを消す。
 見回りの騎士達に見つかりたくない。見つかった場合の対処法もきちんと用意はしているが、そのやりとりが面倒であると思っていた。となれば、見つからなければいいのだ。
 建物から漏れ出す仄かな明かりを頼りに、教えられていた裏側の扉より中に入る。
 パタリと木製の扉が閉まると、通路すら暗闇に覆われてしまう。
 ここまで来れば、見張りに気づかれることはない。
 再び魔導ランプに明かりを灯し、かび臭くて細い通路を慎重に進む。水分を孕んだひんやりとした空気が、頬にまとわりつく。
 誰にも怪しまれずに彼のもとへ向かうためにはここを通るしかない。
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