【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
第六章
 カタカタと魔導車は規則的に揺れている。王都ジギルスから国境の街マヤンまでは、魔導車で三日かかる距離だ。魔導車は魔石の魔力を消費するが、行き先などは使用者が魔力を通して定期的に念じる必要があり、昼夜問わず走らせるのは難しい。だから、夜間休憩を入れての三日かかる距離である。
 それでも、今回は二日に短縮できたのは、エミーリアの魔力のおかげである。
 彼女の斜め前には、今日も眼鏡を光らせているニコラースがいる。そして、エミーリアの隣には身体の大きな女性、ではなく女装している男性が座っていた。彼の名はトレイシーと言い、男にも女にもなれる『闇』の人間であるが、今回はエミーリアのことを考えて女性として同行してくれるらしい。黒くて真っすぐの髪と茶色の瞳は、幻想的な女性を醸し出している。だが、中身は男性だ。それすら忘れるような、見た目は妖艶な女性なのだ。
 口調や声色も女性そのもので、エミーリアはフリージアと話をしているような、そんな感覚にさえとらわれていた。だが、そのような彼であっても、さすがに娼館の潜入調査を長期間は行えない。
 マヤンに向かう前に、エミーリアは二人の人物に今回の件を報告した。
 一人はもちろん、ローランである。
 彼付きの補佐事務官としての仕事を休んでしまうのを心苦しく思っていたが、ローランもなぜか休暇に入ると言う。突然、彼が休暇を取得したのは腑に落ちないが、誰よりも働いている彼だからこそ、エミーリアに合わせての休暇になったのだろうと思った。
 初めて出会ったときは、土気色をしていた彼の顔色も、今ではしっかりと休めているのか、血色が良くなっている。
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