【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
(だからって、ローラン様の前でこの耳飾りは、外したほうがいいわよね)
 彼に会いたいと思いながらも、他の男からもらった耳飾りをしている自分を虚しく思う。
 仕事だからと割り切った気持ちと、ローランに会いたいと願う一人の女としての気持ちが、心の中でくすぶっていた。
 太陽は真上にある。エミーリアがアンとして仕事をするまでには、まだ時間があった。手持無沙汰になっていた彼女は、仕方なく刺繍を始める。これも、ここで働く者たちの嗜みの一つである。
 そうやってなんとかもてあました時間をやり過ごし、店に出る時間となった。
 結局、その日もエミーリアが祭りに足を運ぶことはなかった。
「アンさん。イレーヌさんのテーブルについてください」
 今日は指名ではなかった。いや、今日もだ。そもそも、バジムが来なければまだ指名がもらえるような立場でもなかった。まだ客と寝たこともない。だから、今は顔と名を売る時期。それを毎日のようにママから言われている。
「アンです」
 イレーヌのテーブルには、客が四人いた。
「アン。そこに座って、飲み物の準備を」
 イレーヌの言葉に従い、できるだけ口元を緩めながら飲み物の準備をする。
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