クールな同期と甘いキス

9.本当の顔


大丈夫とはいっても、やはり中には嫌味やからかいを言う人もいて……。
私は食堂にきたことを後悔していた。
さくら先輩と一緒だから大丈夫かと思ったけど、先輩がご飯を取りに行っている間に知らない男性社員二人に声をかけられたのだ。
ため息をつきながらお弁当に目線を落とした。

「白石さん、男遊びしていたって本当? 大人しい顔して大胆だね」
「俺は? 遊んでもらえる?」

二人がにやにやして机に手をついて覗き込んでくる。
噂を聞いて、面白がって私を囲っていた。凄く嫌だけど、場所が場所だし騒ぎになるのは良くない。
周りは興味津々にチラチラとみてくるけど、誰も助けようとはしてくれなかった。
すると。

「それ、セクハラで訴えますけどいいかしら?」

さくら先輩の凛とした声が響く。

「私、人事に同期がいるから相談しようかな~」
「あ、いや。冗談だよ、冗談」

先輩の言葉に二人は気まずそうに愛そう笑いを浮かべて、そそくさと食堂から出て行った。

「さくら先輩、ありがとうございます」
「いいの。柚ちゃんこそ大丈夫?」
「はい」
「この前はトイレで女性社員に嫌味言われたんでしょう? 本当、本条ユリアむかつくわ。自分が三雲に見向きもされないからって根も葉もない噂立ててさ」

さくら先輩は食堂にいる他の人に聞こえるように、わざと声を高くして言った。
先輩なりになんとかこの状況から助けようとしてくれているのが分かるから、すごく有難く思っている。
同期のみんなも、先日の同期会での様子を知っているから噂は信じないでいてくれた。味方がいてくれると思えるからそれだけで嬉しい。
それでもやはり、いたたまれない気持ちになってさくら先輩には断りを入れて早々に食堂から引き上げる。
エレベーターで総務に戻ろうとすると、後ろからカツカツとヒールの音が聞こえた。

「あら、白石さんじゃないですか」

含み笑いのような声で名前を呼ばれ、振り返ると本城さんが腕を組んで立っていた。

「本城さん……」

高いヒール、タイトなスカートを履いて、髪を巻き、香水をつけて今日も完璧だ。
エレベーターを待つ私に向き合うように立つ。

「噂、凄いですね」

フフッと笑う本城さんは私を覗き込む。

「根も葉もない噂です。それに、その噂を流したのは本城さんよね?」
「え~、酷いです、白石さん。私が流したっていう証拠は? ないですよね? ないくせに言いがかりはやめてください」

ふんと鼻を鳴らす本城さん。
あくまでシラを切るつもりなのかな。この人と話しても意味がない気がする。
私はため息をついて、本城さんに向き合うのをやめた。
そんな私の態度にカチンときたのだろう。本城さんがさらに一歩近寄った。

「勘違いしているようだから教えてあげます。あなたみたいな地味女、三雲さんに釣り合いませんよ。」

はっきりそう言われて、胸がズキッとする。
自分ではわかっているつもりだったけど、他人に言われると堪えるな……。

「身を引いたらどうですか。相手はあの三雲さんですよ? 我が社のエースでその貢献度から社長の期待も大きい、ルックスも完璧な三雲さんですよ。隣に立って釣り合うのは誰かしら?」

言いたい放題の本城さんに、カチンときたがあえて黙って答えないでいた。ここで喧嘩をするわけにはいかない。
しかし、この状況に気が付いた人たちがチラチラと様子を伺い始めている。興味と好奇心、野次馬の目だ。
こういう時に限ってエレベーターはなかなか来ない。

「ねぇ、聞いてます? さっさと別れてくださいよ。全く……。三雲さんも女見る目がないのかしら。完璧な男でも欠点はあるのね。男として90点ってとこかしら。あ、マイナス10点はあなたですよ」

クスクスと笑いながら言うその言葉にカチンときて、もう黙っていられなかった。

「別れません。本城さん、前に私に言ったよね? 三雲君のクールで冷たいところが好きって。でも私にはそうは思えない。三雲君は優しくて温かくて包みこんでくれる人だよ。私は彼のそういうところが好き。私のことは何言われてもいいけど、彼を傷つけるようなことは言わないで」

毅然と言い放つ私に本城さんはたじろいだ。まさかこんな地味女に言い返されるなんて思いもしなかったんだろう。
すると、後ろから優しく腕を引かれた。
よろけた私を後ろから受け止めたのは三雲君だった。

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