エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

会食会場から直接帰宅すると、リビングの卓についた。菊乃は会食用のワンピース姿のまま、俺に紅茶を用意しようとしている。

「俺がやる。着替えてくるといい」
「いえ。私が」

菊乃は不安そうに見えた。紅茶を二人分入れると、あらためて向かい合って座った。
俺はある程度覚悟を決めていた。

「菊乃、きみが今日見たメモは重要な情報かもしれない。あとで覚えているだけ書き起こしてほしい」

俺の言葉に菊乃はいっそう困惑している様子だった。言うつもりはなかった。しかし、菊乃はもう巻き込まれていて、俺の言動や行動をおかしいと思っている。

「きみが考える通り、俺の仕事は日本とイタリアの文化交流だけじゃない。本来の業務は、イタリア政府の情報収集と、政府内要人の情報を集めることだ」
「それは……諜報活動……スパイってことですか」
「公的であり、違法性はない。対人や現地での情報収集的側面が強いと思っている。それでも諜報活動であることに間違いはない」

菊乃がしんと黙った。夫に裏の仕事があり、それがスパイじみたものであれば、驚くのも無理はない。だから言いたくなかった。

「ジャコモ・ヴァローリは情報を集めたい要人のひとり。政権に批判的で、現政権を続行させたい日本サイドには都合が悪い存在だ。しかし、今日実際に会い、俺の聞いた話ときみの見たメモを総合すると、彼にはさらに裏の顔があるようだ」
「裏の顔、ですか?」
「きみが見たメモにあったルース島という言葉。ルース島はあるマフィア組織の本拠地だ。もしかすると、ヴァローリはマフィアから何かを買い付けているかもしれない。武器なのか、麻薬なのか。人身売買に関わっている可能性もある」

菊乃の顔がさあっと青ざめた。怯えさせたくはないが事実である。俺の責任だ。

「きみに言うつもりはなかった。いい気分はしないだろうし、不安を感じさせたくなかった」
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