敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜


 フレディはよくできた近侍でオーレリアの話を聞くやその足でトラヴィスの元へ向かい、戻ってくる頃にはお茶会の開催日時や会場、招待状まで手配済みという周到さをみせた。

 しかも久しぶりに社交界へ顔を出すアニーに配慮して彼女の親しい友人(婚約済み)を中心に招待しているのだから抜かりない。
 数日のうちに招待状を出した全員から返事が返ってきて、アニーの招待状カードには出席という文字が書かれていた。

 かくしてクラウスとアニーのためのお茶会が開かれることとなり、オーレリアは成り行きを見守ることにした。



 お茶会は離宮にあるこぢんまりとした庭で開催された。それほど広くはないので少人数でのお茶会にはもってこいの会場だった。

 クラウスは存外素直で真面目な性格らしく、皇族であるにもかかわらず会場に一番乗りしていた。訪れた招待客(ゲスト)一人一人に挨拶をしていき、遂に会場にやってきたアニーと対面する。

 オーレリアはトラヴィスと一緒に樹木の陰から二人の様子を窺っていた。正直なところ、運命の相手同士が顔を合わせてその後どう発展するかは想像もつかない。


「ごきげんよう、ゴードン伯爵令嬢」
「クラウス殿下、ごきげんよう。今日は気候も良くて絶好のお茶会日和ですね」
「……そうですね」
「……はい」
「……」
「……」


 ものの数秒で会話終了。
 賑やかな会場であるはずなのに二人の間だけ沈黙が広がっていく。

(ええと。これで終わり……なの?)
 不安を覚えたオーレリアがトラヴィスを一瞥すると彼は顔を手で覆って空を仰いでいた。

 どうやらクラウスはいつも通りの対応をしているらしい。
 どんよりと暗い表情を浮かべるトラヴィスを慰めるべく、オーレリアは左手の親指と人差し指でわっかを作り赤い糸を確認する。二人の小指には互いに繋がる赤い糸が確かに結ばれている。けれどただそれだけで特に何も起こらない。

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