敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜
「――オーレリア王女に改めて訊きたい。どうか、私の妻になってくれないだろうか」
真摯な眼差しを受けてオーレリアは目を細める。
「もちろんです。私もトラヴィス様と一生を添い遂げたいです」
返事を聞いたトラヴィスは破顔すると立ち上がり、再びオーレリアを抱き寄せて今度は頬にキスを落とす。
オーレリアは声にならない悲鳴を上げた。
「し、神官の前で結婚を誓ってサインするまではキスできない決まりでしょう?」
「ああ、そうだね。それが決まりなのは知ってるよ。だけどそれって裏を返せば唇以外ならどこでもいいってことだよ」
トラヴィスはにこにこと笑いながら今度は額にキスを落とす。
「も、もうトラヴィス様!」
――こんなことされたら私の心臓がもちませんっ!
そう叫びたいのに喉はいつの間にか渇いていて、大声が出せない。
「これからは存分に甘やかしながら愛を囁くから。じゃないとオーレリアは私の気持ちに気づいてくれないみたいだし。――……覚悟しておいてね」
「……っ!!」
甘い言葉を囁くトラヴィスに対して、男性に免疫がないオーレリアの限界はすぐに達してしまった。全身が茹でだこのように真っ赤だ。下手したら頭から湯気が立ち上っているかもしれない。
「……お、お手柔らかにお願いします」
「さあて、どうしようかな?」
くすくすと笑うトラヴィスの赤い瞳には今まで以上にオーレリアを慈しむ色が浮かんでいた。
後に分かることだが、王妃の妹は自ら選んで結婚したホルマン伯爵と関係がうまくいかず僅か数年で破綻していて家庭内別居が続いていた。
コーレリアの方はというと、想い合っていたギルバートと結婚してとうまくいっているかと思いきや、彼には平民の恋人がいた挙げ句、国王という最大の権力が手に入るとコーレリアのことは一切顧みなかったという。
――そしてハルディオ帝国の皇妃となったオーレリアはというと、夫であるトラヴィスだけでなく帝国民たちからも愛され親しまれる存在になり、幸福を招く伝説の聖女として後生に語り継がれるのだった。
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