― 伝わりますか ―
「一つと言っても二つでございましょう。織田か水沢か……引き渡すにも二種ありまする」

「そうだ」

 と、側近の顔さえ見ずに頷いた。

「水沢に引き渡せば──自分の娘だ。多額の恩賞があるに違いない。織田に渡しても同じことだ。しかし、どちらにしても月葉にとっては好ましくあるまい」

「“死”待つのみということでありましょうか」

 良く出来た家来は扱いにくい、と思いながらも彼は、

「分からぬ」

 そう言った。

 どう見ても水沢が不利。そこへ月葉を戻すことなど(はなは)だしくも馬鹿らしい。織田に渡すとしても和睦に持ち込めなければ、死は免れないというのである。

「和睦になったとしても、織田の人質になるのみ。好んで人質になる者などいはしない」

 そして又、側近によって注がれた冷たい酒を、ひたすら胃に流し込んでいた。

「悠仁采様、そう急いで呑まれてはお身体に悪うございます。酒はちびちびと呑み永らえるのが粋というものでござりましょう」

「うむ……」

 悠仁采は酒を制されると、渋々と盃を置いた。そろそろ丑三つである。


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